お酒2題


泡盛と焼酎

まず、この二つの違いについて解説してみる。


泡盛と焼酎は酒類品目表示が違う。
泡盛は「泡盛」、焼酎は「焼酎」と表示される。
泡盛と焼酎という言葉は、概念的には上位下位の関係にある。焼酎は泡盛より大きな上位概念、つまり、泡盛は焼酎に含まれるとするものだが、別の飲み物であるとする説もある。実際の醸造方法の違いあんどからすると、別の飲み物と考える説の方が正しい気がする。


酒税法では、「しょうちゅう」(なぜかひらがななのだ。)は連続蒸留しょうちゅう(旧甲類)と単式蒸留しょうちゅう(旧乙類)に分類される。(2006年5月1日の酒税法改正により旧名称より変更された。)
泡盛はこの「単式蒸留しょうちゅう」に分類される。
ほかの焼酎はいろいろだが、普通に居酒屋でサワー類に入っているのが連続蒸留しょうちゅう、各地の名産としていろんな銘柄で地焼酎になっているものはすべて単式蒸留しょうちゅうである。
したがって、普通に飲む焼酎と泡盛酒税法上は両者ともに「単式蒸留しょうちゅう」で違いはない。
しかし、製法・材料には両者にかなり違いがあるのである。

泡盛以外の単式蒸留しょうちゅうの材料及び製法

1.元の原材料(米、麦、芋など米が多い)へ麹菌を生やし、麹をつくる。(麹菌の種類は問わない。)
2.麹に一次発酵材料(米を使うことが多い)と焼酎用酵母を加えタンクや甕で10日前後発酵させ、もろみを作る。
3.一次発酵させたもろみの中へ二次発酵材料を(一次発酵材料に比べるとかなり多く)加え、さらに1〜2週間程度発酵させる。(このとき投入した二次発酵材料が焼酎の主要原材料として表記される。例えばサツマイモを投入すれば「芋焼酎」となる。一次発酵までの材料は何でも良い。一次発酵二次発酵通して同じ材料で仕込まれたものは100%麦焼酎やピュア芋焼酎といった表記がされることが多い。)
4.発酵が終了したらもろみを単式蒸留器で蒸留する。
なお、単式蒸留しょうちゅうでは、酒税法でも蒸留は1回と義務づけられており、連続蒸留しょうちゅうのように何度も蒸留したりしない。

泡盛の材料及び製法

(一部違う製法をする泡盛もあるが、ここでは古式製法を記載)
1.原材料のすべての米(タイから輸入されたインディカ米を使う。)を蒸米し、それに黒麹菌(これ以外を使うと泡盛とは名乗れない。)をふりかけ、麹を造る。
2.麹ができたら、それをそのまま全部に水と泡盛酵母を加えもろみにし、タンクまたは甕で10〜14日程度発酵させる。このときに普通の焼酎のように発酵材料を加えたりしない。これを全麹発酵と呼んでいる。よって、二次発酵材料も当然加えない。
3.発酵が終了したらもろみを単式蒸留器で蒸留する。
蒸留は泡盛だからといって変わりはないが、減圧蒸留だけでなく、高圧蒸留もまだまだ主流として使われているようである。(つまりかなり度数の高いものも、多数造られているということである。)


蒸留後は両者ともほぼ同じ工程となる。
蒸留された泡盛・焼酎は甕やタンクに貯蔵して熟成される。(期間はまちまちで、少なくとも数ヶ月、長いモノのは数年から10年以上。)
また、普通に蒸留(高圧蒸留)すると40度以上のものができるので、瓶詰め前に加水し度数調整するものが多かったが、近年は蒸留時の調整(主に減圧蒸留)によって、度数の低い状態に蒸留し、そのまま出荷できるものも出てきている。
さらに、普通は蒸留後または瓶詰め前に濾過して不純物や沈殿物などを取り除くが、この工程をしない焼酎・泡盛もある。


このように、熟成の期間の過ごし方や瓶詰めなどの工程は似ているが、これはウィスキーやブランデーもそっくりであるので、それをもって同じ種類の飲み物とはいえないであろう。
バーボンとスコッチを同じ飲み物と言うのだとすれば、泡盛も焼酎の一種なのであろうが、普通は厳然とバーボンとスコッチは分けている場合が多いので、泡盛も焼酎とは分けて考えてあげた方が、焼酎も泡盛も幸せになれる気がする・・・



ビールの材料

日本の有名ビールの材料は飲んでいるカンの表示を見てもらうとわかるが、大抵次のようなものとなっている。
原材料:麦芽、ホップ、米、コーン、スターチ
上記以外に発酵のための酵母と、当然、水が入るわけだが、普通に考えられる材料である麦芽とホップ以外に「米、コーン、スターチ」という代物が入っている。これはいったい何なんだろう。
そもそもビール大国ドイツ(う〜ん、このいい方は異論があるだろうなぁ。普通はベルギーだろうと言われそうな気が・・・)では、その一部前身であるバイエルン公国で、1516年4月23日にウィルヘルム4世により発令された「ビール純粋例:Reinheitsgebot」という法律があり、「ビールは大麦、ホップ、水だけで造らなければならない。」と原料を定めている。その後1556年には、製法の研究から原料として新たに酵母の使用が許されているが、それだけしか認められていなかった。その後、非関税障壁として1987年にこの法律は非合法化されたが、ドイツ国内で生産されるビールはこの純粋令を守り続けている。現在のEUでは、この純粋令はビールがドイツにとって伝統の食品であることを示すものとして認め、ドイツ国内においてはビール純粋令に適合したビールのみを製造することとしたが、純粋令に適合しないビールは輸入もできないわけではないとして、非関税障壁を取り除いた。このようにドイツでは、いま現在も、このビール法が約500年間も君臨しているのである。
しかして、この法律を日本のビールに適用すると、サントリーモルツ系とヱビス系以外の日本のビールはすべてビールではなくなってしまう。
実際には、こんなに材料に厳しいビール法はドイツだけでしか発効してない。お隣のもう一つのビール大国ベルギーでは、こんな規則はない。しかし、普通は他の穀類を入れたりはしない。
では、何で日本では「米、コーン、スターチ」が入っているのだろうか?

大麦の質

日本以外でも、イタリアやアメリカもコーンを大量にビールの材料として使っている。
アメリカは単純に生産効率的な問題であろうが(だって、アメリカにまともなビールってあるのか?少なくともtrillimicは知らない。)、日本、イタリアは、ちょっと事情が違っていると思われる。
日本・イタリアはともに火山国である。
ということは、土壌は火山灰土質となり、土壌に含まれる石灰の量が多くなり、結果的に土壌のカルシウム量が高いものとなる。
そうなると、米、小麦、大麦などの穀類はその実(の特に表面近く部分)にタンパク質を多く含むようになる。
種類を造る酵母がアルコール発酵に必要としているのは、ブドウ糖・果糖である。したがって(糖類でない)穀類を発酵させるときは、穀類を何らかの形で糖化してから発酵段階に入る(世界で唯一、日本酒のようにデンプン糖化とアルコール酵母発酵が同時に進行しているものもある)。
穀類の糖化の材料は穀類中のデンプン質である。このデンプン質を日本酒や焼酎の場合は、麹カビによって発酵させて糖化している。
ビールの場合は、麦芽酵素によって大麦中のデンプン質を糖化している。
ここで重要なのが、糖化の対象は「デンプン質」であると言うことである。
化学式構造から見れば当然なのであるが、ブドウ糖果糖の化学式は
C_6H_1_2O_6
であり、デンプン質はこれら糖の分子が横に脱水重合して結合したものである。
したがって、糖化には「デンプン質」が重要で、「タンパク質」は不要なものだと言うことである。
さらに、タンパク質は発酵を阻害する要因ともなり得るので、できるだけ排除してきた。
日本酒では、この状況を作り出すために米を磨く=精米を行っている。特に吟醸酒大吟醸酒とよばれる酒は原材料の米を60%・50%以下まで、それぞれ精米しないといけないと規定されている。
同様にビールにおいても、タンパク質が増え、デンプン質が不足するとうまく発酵できないことになる。
したがって、大麦に比べて、より、デンプン質の多いこれら「米、コーン、スターチ」を用いるようになったのである。
具体的な言い訳としては「これらを加えないとデンプン質不足でうまく発酵(または糖化)できない」とか言われたりしている。
しかし、モルツ・ヱビスはこれらを加えなくてもきちんと糖化・発酵してビールになっている。
ということは、どちらかがウソをついていることになる。
モルツ・ヱビスが「米、コーン、スターチ」を使っているか、「米、コーン、スターチ」を使わなくてもうまく糖化・発酵できるか、である。
当然、後者が正しい。日本の大麦でも大麦麦芽とホップだけでちゃんとビールができるのである。

やっぱり儲け主義

となると、なぜ、米、コーン、スターチを使用するのであろうか。
これは、とあるところから仕入れた情報であるが、モルツ・ヱビスでは原材料の大麦を、欧米でのビール醸造に必要な大麦の量と比べて、多く投入しないとうまく発酵できないらしい。
つまり、やはりデンプン質不足は起きていて、それを補うために少し多めに大麦が必要になっていると言うことである。
であれば、最初から大麦を多めに入れればビールは日本でも純粋ビール令に則ったものを造れるはずである。しかし、そうなっていない。それはなぜか?
これは穀類の値段に関係している。実際の値段の大小は
(わからないが)大麦>米>コーン>スターチとなっている(はずである)。
したがって、大麦の量を減らしてスターチ類の量を増やすと、原材料費が安くすむことになる。
たぶん、日本のビールメーカの公式見解は「タンパク質関係でうまく発酵しない」といいつつ、実際は「安くすむから入れている」のではないかと推測している。
なんといっても2006年まで三倍醸造酒が日本酒の主流を占めていたお国柄だから、当然、こんなこともありなんだろう。