先日改造してから、まぁ、そこそこいい感じのベース用プリアンプなんですが、やっぱ、いまいち、残留ハムノイズが大きいんです。(涙)
そこで、アースを中心としたハムノイズの原因を理論的観点から調べてみました。

結構すごいサイト発見

ここのサイトは、かなりすごいッス。
http://home.highway.ne.jp/teddy/tubes/tips/tips0.htm
この方、相当なマニアだと思います。
ここの
http://home.highway.ne.jp/teddy/tubes/tips/b410.htm
これを読んでみて、目から鱗がポロポロ落ちました。
trillimicは根本的にアースの接続配線方法の理論が理解できていませんでした。
ただ、このサイトは、図面がキャラクタ構成なので、見にくくてわかりにくいのと、基礎知識は省略されているので、trillimicが図面を別に書いたもので自分なりの理解で、このサイトの記述をtrillimicがわかるように解説してみたいと思います。

三極管の一段増幅回路

先のサイトにも解説があるように、まず、三極管の一段増幅回路を考えてみます。
普通に解説される三極管の一段増幅の回路図はこんな感じです。

[図1:普通の三極管一段増幅回路]


普通の真空管動作を説明するときには、グリッド(G)に入力された信号は、三極管で増幅されてプレート(P)に現れることがわかればよく、あわせて、グリッドバイアス方式も認識できるだけの回路素子も記載されている、この回路図で十分です。
しかし、ハムなどのノイズ対策でアースのことまで考えると、これではたりないのです。
アースの接続配線回路をきちんと書いた回路図はこのようになります。

[図2:アース解説付き三極管一段増幅回路]


入力(input)に与えられた信号は
(input)-(1)-(Rg)-(4)-(E1)
<一番左のの線>
の経路を流れます。


この電流によって抵抗Rgの両端に電圧が生じます。この電圧は、交流的には、(2)-(6)間にかかります。しかし、カソードのパスコンCkがあるために(6)と(3)は交流的に同電位になります。したがって、結局このRgの両端に発生した電圧の交流成分は(2)-(3)間すなわち真空管のグリッド〜カソード間にかかることになります。Rgの両端に発生する電圧の交流分ですから、これが三極管の入力信号電圧ということになります。


さて、(2)-(3)間すなわち真空管のG-K間に入力信号電圧(交流)が与えられると、真空管は入力電圧の変化に応じてプレート電流を交流的に変化させるように動作します。いわゆるこれが交流増幅動作になります。


さて、まず真空管が動作するためには、プレートからカソードに向かって直流電流が流れている必要があります。


プレートを流れる直流電流は
(B+)-(9)-(Rp)-(8)-P(3極管)K-(3)-(Rk)-(5)-(BE)
<図の黄色の線>
の経路を流れます。
これによって、増幅素子として真空管が動作できる状態を作り出すわけです。
したがって、入力信号のないとき=入力が直流状態のときは、この直流動作しかしません。


ここで、交流信号がG-K間に入力されると、この交流成分もプレート電流と同じ(B+)-(9)-(Rp)-(8)-P(3極管)K-(3)-(Rk)-(5)-(BE)と流れようとしますが、RkはCkで交流的にショートされているので交流成分はRkではなくCk側を流れてしまうのです。
また、(9)-(6)間はCcでショートされているので電源方面には流れていかずに(9)-(Cc)-(7)-(6)と近道をすることになります。


これらを統合すると、交流成分は(8)を分岐点として
(8)-(Rp)-(9)-(Cc)-(7)-(6)-(Ck)-(3)
<図の青い線>
のループを形成します。
この青い線のループを流れる電流は、この三極管で増幅されたプレート電流の交流成分となります。


この交流電流はRpの両端に交流電圧を発生させ、その生じた交流電圧を取り出すループは、後段の入力回路を負荷と考え、
(8)-(Co)-(output)-(E2)-(7)-(6)-(Ck)-(3)
<図の赤い線>
というループになります。


[まとめ]
入力信号のループ():
    (input)-(1)-(Rg)-(4)-(E1)
プレート電流の直流成分のループ():
   (B+)-(9)-(Rp)-(8)-P(3極管)K-(3)-(Rk)-(5)-(B-(BE)
プレート電流の交流成分のループ():
   (8)-(Rp)-(9)-(Cc)-(7)-(6)-(Ck)-(3)
出力信号のループ():
   (8)-(Co)-(output)-(E2)-(7)-(6)-(Ck)-(3)

アースの工夫

さてここで、問題は、この4つのループが、できるだけお互いに干渉し合わないように配線しなければなりません。この4つのループのアース側配線を間違えると、各ループが干渉してしまい、ノイズの原因などになります。
そういう理由で、アースはむずかしいといわれるのです。


4つのループの互いの干渉を防ぐ観点から、図2の回路図を少しだけ書き換えます。
ここで、重要なことはアースラインのポイント間には、電流を流さないようにする、ということです。

[図3:アース回路を改良した三極管一段増幅回路]


さて、図の電流のルートを示す線を見ておわかりの通り、この配線回路では、アースライン上の接続ポイント間、(f)-(g)間と(g)-(h)間には電流が全く流れません。これがアースラインの本来の役割です。
つまり「アースラインには電流は流れない」のです。正確には「アースには電流を流してはならない」のです。アースラインの本来の役割は「基準電位をつくること」なのです。


アースラインは導線です。理論的には抵抗はゼロですが、実際の銅線には、わずかですが抵抗があります。ここに(交流)電流が流れれば、わずかですが電圧が発生してしまいます。
この電圧によって、その電圧がかかる増幅素子のアースがふらふらしますので、それはそのまま、その素子の増幅出力をふらふらさせます。
しかも、入力がふらふらしますので、出力はその素子の増幅度で増幅された大きさにふらふらすることになります。そして、一度、増幅回路に混入したアースのふらふらは増幅素子を通過するたびに大きくなります。
したがって、仮にギターアンプの初段でこれが起これば、ギターアンプはギターの出力を普通1〜10万倍ぐらいに増幅しますので、その分のものすごい増幅度でハムノイズが発生することになるのです。

カップリングコンデンサ

B電源をディストリビュートし、各段の必要電圧に調整するデカップリング抵抗とアースの間に挿入されるデカップリングコンデンサ「Cd」は、電源に含まれるリプルを取るためにあるのではありません。
文字通り段間をデカップリングする=各段ごとにプレート電流の交流成分のループ: (i)-(j)-(h)-(e)-(d)をつなぐ、そのためにあるのです。このパスコンには、増幅回路ループに流れる交流信号電流が100%流れます。つまり、これがなかったら、増幅回路が成り立たないのです。


そう考えると、デカップリングコンデンサというのは電源B+からアースに落とすというよりは、プレート負荷抵抗(Rp)の上端(電源側)とカソード(K)とをつなぐものと考えた方がより正確であることがわかります。
信号電流が100%流れるので、これの容量が少なければ低域特性は劣化し、コンデンサ自体の品質が悪ければ音に影響することになります。
このように、デカップリングコンデンサは、各段において、その段の増幅回路を成り立たせるための増幅素子として、非常に重要な役割を持っているのです。


したがって、配線する場合は、プレート負荷抵抗(Rp)に近いところからカソードパスコン(Ck)のアース側(f)点めがけて最短で結ばなければ意味がありません。電源回路付近のブロックコンデンサをデカップリングコンデンサにして、そこまで配線を迂回させるなんていうのは論外なのです。


よくアンプからハムが出ると電源リップルが原因だと思い、このデカップリングコンデンサの容量を大きくする人がいますが、これは効果がないことがほとんどです。
そもそも、電源に含まれるリプル成分は、電源回路のもっと上流のところで十分に除去されていなければならないのです。このデカップリングコンデンサの容量を増やしてもリップルの量は減らないのです。
そして、ハムの原因の多くは、電源のリプルが多いからではなく、電源のリプルが流れてはいけないところを流れていることが原因であることがほとんどなのです。

電源との接続:

増幅回路を動作させるためには、真空管に直流電流・電圧を電源から供給しなければなりません。
では、電源のプラス側と電源のアース側は、それぞれ、どこに接続したらいいのでしょうか。その答えも図3にあります。
図3の回路を見るとわかるように、電源のプラス側はデカップリング抵抗(Rb)を経てプレート負荷抵抗 (Rp)につなげばいいことがわかります。また、電源のアース側は、カソード抵抗(Rk)に近い(g)点につなぎます。(f)点や(h)点ではありません。
こうすることによって、先ほどから何度も出てきているプレート電流の直流成分のループが他の電流ループに影響せずに、そのまま電源回路のアースに戻っていけるのです。


また、このプレートに供給される直流電源は、十分にリプルが除去されていなければいけません。なぜかというと、もしここにまだ多くのリプルが残っていると、リプル分だけは、(B+)-(j)-(Cd)-(h)-(g)-(BE)という妙なルートを通ってしまうからです。このルートを電源のリプル電流が通過してしまうと、交流信号電流の経路に重なってしまって、交流信号の出力にこのリプル分が重畳されてしまい、雑音の原因になってしまうのです。
さらに、電源電流にリプル電流が大きいと、先ほどの説明の通りこのアースライン(h)-(g)間で電位の違いが発生してしまい、アンプの出力からハムが出てしまいます。
もし、デカップリングコンデンサ(Cd)が(h)点ではなく(f)点付近に接続されていたりすると、ここで発生した電位差がグリッドに入力されて、この三極管増幅されてしまうため、出力側から増幅された盛大なハムが出ておお慌てという事態になってしまいます。この場合おわかりのように、デカップリングコンデンサの容量を増やしても、ハムは収まりません。
ハムが出た場合は、このように、信号のループをもう一度じっくり検証して、特にアースラインを中心とした配線を見直すことが重要な鍵を握っている場合が多いのです。

2段増幅回路の場合

2段増幅のメインアンプの場合:
次に、増幅回路が2段(またはそれ以上)になった場合に拡張してみます。

<図4:2段増幅回路のアース解説>


各信号ループ、直流電流ループは以下のようになります。
(1)入力信号のループ:
    入力→グリッド抵抗→アースライン
(2)初段のプレート電流の直流成分のループ:
    B電源→プレート抵抗→真空管→カソード抵抗→アース
(3)初段のプレート電流の交流成分のループ:
   プレート抵抗→デカップリングコンデンサ→カソードコンデンサ真空管
(4)初段出力と次段入力のループ:
   カップリングコンデンサ→次段グリッド抵抗→カソードコンデンサ真空管
(5)次段のプレート電流の直流成分のループ:
    B電源→プレート抵抗→真空管→カソード抵抗→アース
(6)次段のプレート電流の交流成分のループ:
   プレート抵抗→デカップリングコンデンサ→カソードコンデンサ真空管
(7)終段出力信号のループ:
   カップリングコンデンサ→出力→カソードコンデンサ真空管


ここで、いちばん悩ましい問題は、電源のアースのリターンBEへの帰り道を(2)と(5)の2つでどう切り分けるかです。
B+側は各段独立して電源が供給されますからひとまずいいとして、問題はBE側の電源回路への帰り道をどこから取るかです。初段の帰り道のポイントは(x)点ですし、次段の帰り道のポイントは(y)点です。しかし、2つのアースの帰りを別々にわけて電源のアース:BEにつないでしまうと三角関係になってしまい、アースのループができてしまいます。
アースラインに電流が流れるのが良くないことは、上述の通りですが、ループができてしまうのは、もっと良くないのです。
ループが発生するとホンの少ない電流の発生でも、ループ内をずっと流れつづけるため、どんどん増幅されて、大きなノイズとなってしまいます。これは外来雑音でも起こってしまいます。したがって、ループがあれば、必ずノイズが発生してしまうのです。アースでは、一番に注意が必要な部分といえます。


したがって、アースラインを使って、どちらかにアースをまとめなければ、仕方ないのです。ここでひとつの妥協をすることになります。アースに流れ込む電流は一般に初段よりも次段側の方が増幅する電圧が大きいので大きくなるのが普通です。したがって、次段管カソードから(y)点を通ってBEにぬける電流の方が大きいため、この電流の方が初段のアース電流よりも、よりアースライン上に流したくないものになるわけです。そこで、電源への帰り道のポイントを(y)点からとることにします。一方で、初段管カソードから(x)点を通って(y)点経由でBEにぬける間、(x)->(y)間のアースライン上に電流が流れることには目をつぶらざるを得ません。そのために、(x)点と(y)点の距離をできるだけ短くして、この2点間で生じる電位差を無視できるくらい小さくするわけです。図のように1点アースにするのもよい方法です。


注意しなければならないのは、(3)と(6)の扱いです。この信号ループは、各段で独立して形成されますから、電源とアースを結ぶカップリングコンデンサの経路はできるだけ短くなるように、しかもアースラインには(同電位にするために)接続する必要がありますが、そのときに再三論じているようにアースライン中に交流信号が流れ込まないように配線しなければなりません。
特にデカップリングコンデンサのアース接続経路が各段のカソードバイパスコンデンサと最短になっていれば、アースラインには電流が流れませんので、そんなに神経質になる程の心配はいりません。逆にデカップコンの配線には細心の注意が必要です。

電源回路

  • 電源のリターン回路:

B電源についての電流の行きと帰りのルートを考えてみることにします。
まず、基本的な普通の電源回路は下図5の通りです。

<図5:一般的な電源回路配線>
ここで、交流電流が整流されて直流になるときに流れるループを考えられるように、回路をもう少し細かく書き直してみます。
(ここで、●はラグ板などの端子でリード線をハンダ付けしている場所、○はコンデンサ、コイル、ダイオードなどの素子自身の端子です。)

<図6:電源回路での電流ループ>
パワートランスを出た交流は、ブリッジ整流回路を経て第1の平滑コンデンサ(C1)による最初のリプルフィルタにはいります。このコンデンサ(C1)には実に大量のリプル電流が流れます。
ここで、そのリップル電流の流れ道を考えてみると
(a)-(b)-(C1)-(e)-(f)・・・図の青のルート
のループを形成します。


次にコイルと第2の平滑コンデンサ(C2)のリプルフィルタにはいります。第1平滑コンデンサ(C1)で取りきれなかったリプルがここでバイパスされますので、このコンデンサ(C2)にもそれなりのリプル電流が流れます。
このリプル電流の流れは
(b)-(c)-(C2)-(d)-(e)・・・図の赤のルート
のループを形成します。


さて、この2段のリプルフィルタ回路を最も効率よく働かせるためには、どう配線したらいいのでしょうか。平滑コンデンサ(C1)も(C2)もリプル電流を交流的にショートすることでフィルタとしての役割を果たしています。そして配線の線材にはわずかですが抵抗分がありますから、ほんのわずかですが、リード線とつながっているコンデンサ(C1)の端子と(e)の間、(C2)の端子と(d)の間、(d)-(e)間、(e)-(f)間に電圧降下が生じています。
この電圧降下の影響そ避けるためには、図6の回路を書き換えて下図7のように配線するのが効果的といえます。

<図7:電源部の平滑コンデンサとトランス・出力のつなぎ方>


コンデンサの物理的な端子ぎりぎりのところが最もリプルが少なく、端子から離れれば離れるほどリード線の抵抗分のためにリプルは多くなってしまいます。同じ線だからどこでもいいじゃないか、というわけにはいかないのです。実際、配線に使用される銅線は1mあたり30mΩ〜150mΩくらいの抵抗分があります。ということは、10cmあたり3mΩ〜15mΩの抵抗分があることになり、ここに100mAのリプル電流が流れると0.3mV〜1.5mVの交流電圧が生じてしまいます。リプル・フィルタ回路では、アースのようにみえる(d)、(e)、(f)の各点の電位は同じではないのです。


図6を見てわかるように、電源出力側の平滑コンデンサ(C2)の両端の端子部分が、電源のリップル除去直後で、もっともリプルが小さくなっている点です。したがって、ここから電源を取り出してアンプ部に供給します。
ここよりも上流の(d)点、(e)点、(f)点はアースのように見えてもいずれもリプル電圧で揺さぶられていますから、もはやアースとはいえません。
具体的には、図7の(x)、(y)をそれぞれアンプ部の電源供給・回収元の(B+)と(BE)とつないでやります。


このようにみてゆくと、アンプ全体のアースを電源回路のコンデンサのところでまとめてとるという方法では、まったくハム雑音に対抗できないことがわかります。この方法は、コンデンサが非常に高価でたった1個のブロック・コンデンサぐらいしか使えなかった時代、雑音をあまり気にしなかったラジオ時代の悪しき遺産で、今日のような低雑音を追求するアンプには全く通用しないものなのです。